外来で「先生、最近よく脈が飛ぶんです」と訴える方の数は、季節の変わり目になるとぐっと増えます。私が勤める循環器クリニックでも、健診の心電図で期外収縮を指摘されて駆け込んでくる方が、月に20人以上は来院されます。
結論から先に伝えます。脈が飛ぶ感覚のほとんどは「期外収縮」と呼ばれる不整脈で、健康な人にもごく普通に起こります。心臓血管研究所付属病院の解説では、健康な成人の98.7%に期外収縮が見つかったという研究データもあるほど、ありふれた現象です。
ただし「ほとんどが大丈夫」と「全部大丈夫」は別の話。中には脳梗塞や突然死につながる危険なタイプも混じってます。自宅でできるセルフチェックで危険度を見極めるポイントを、25年の臨床経験から整理してお伝えします。
「脈が飛ぶ」って実際に何が起きてるのか
正常な心臓は、右心房にある洞結節(どうけっせつ)という発電所から規則正しい電気信号が出て、1分間に60〜90回ほどのリズムで全身に血液を送っています。このリズムが何らかの理由で乱れた状態を、まとめて不整脈と呼びます。
「脈が飛ぶ」と感じる現象の正体は、多くの場合「期外収縮(きがいしゅうしゅく)」です。予定より早く心臓が1拍打ってしまい、その次の正規の拍動までの間隔がやや長くなるため、患者さんの感覚としては「ドクン……(一瞬抜ける)……ドクン」と脈が抜けたように感じます。
実際には心拍が抜けているのではなく、早すぎる拍動の血液量が少なくて手首で感じ取れないだけ。だから検脈中の「あ、今飛んだ」は、ほぼこの早期収縮を捉えています。
期外収縮には2つのタイプがある
期外収縮は、異常な電気信号がどこから出るかで大きく2種類に分かれます。心房(心臓の上の部屋)から出る上室性期外収縮と、心室(下の部屋)から出る心室性期外収縮です。
不整脈の名医サイトの解説によれば、上室性は良性とされるものが多く、自覚症状がなければほとんど治療の必要はないとされています。一方、心室性は心疾患を背景にしている場合があり、慎重な評価が要るタイプです。
とはいえ、自宅で「これは上室性、これは心室性」と判別するのは不可能。だからこそ、後述する自宅セルフチェックでは「タイプを当てる」のではなく「危険サインの有無」を見ることに集中します。
自宅で見極めたい「危険な脈飛び」5つのサイン
私が患者さんに必ず伝えているのが、放置NGのサインです。期外収縮そのものは怖がりすぎなくていいんですが、以下のうち1つでも当てはまるなら、できるだけ早く循環器内科を受診してほしいと思ってます。
| サイン | 具体的な状態 | 受診の緊急度 |
|---|---|---|
| 失神・前失神 | 意識が遠のく、目の前が真っ暗になる | 救急要請レベル |
| 連続して飛ぶ | 「ドクンドクンドクン」と3回以上不規則が続く | 当日〜翌日受診 |
| 胸痛・強い息切れ | 胸が締めつけられる、坂道で息が上がる | 当日受診 |
| 運動中に悪化 | 動くと飛ぶ回数が増える、長く続く | 1週間以内に受診 |
| 常に脈が不規則 | 15秒測ってリズムがバラバラ | 1週間以内に受診 |
菊名やまゆりクリニックの解説でも、心室性期外収縮で突然死の危険性を有するのは「心機能が悪い場合」と「失神(前失神)を伴う場合」とされています。逆に言えば、心エコーで心臓の働きが正常で、気が遠くなる経験のない方なら、連発していても危険性はほとんどないという見立てです。
つまり「脈が飛ぶ」単独で怖がる必要はないけど、上の表の症状とセットになった瞬間に評価が変わる、ということ。ここを混同しないでほしいです。
特に注意したい「心房細動」のサイン
もう1つ、自宅で見つけたい不整脈が心房細動です。これは期外収縮とは別物で、脈のリズムが完全にバラバラになるのが特徴。東京ハートリズムクリニックの情報によれば、心房細動患者の40〜50%は無症候性で、脳梗塞などの重篤な合併症を発症してから初めて指摘されるケースも少なくないとされています。
動悸ではなく「なんとなく疲れやすい」「息切れ」程度の自覚しかないこともあるため、検脈で偶然見つかると本当にラッキー。後述するセルフチェックの手順は、心房細動の早期発見にもそのまま使えます。
自宅でできる「検脈セルフチェック」の正しいやり方
道具なし、コストゼロ、所要30秒。それでいて専門医も診察で必ず行う基本のチェックが、検脈(けんみゃく)です。手首の橈骨動脈(とうこつどうみゃく)に指を当てて、リズムを確かめる方法。
オムロンヘルスケアの心房細動ガイドや、日本国内の医療機関の多くが推奨している方法を、看護師目線で噛み砕いて手順化します。
- 手首の内側、親指側に人差し指・中指・薬指の3本を軽く当てる
- 骨の内側で脈がトクトクと触れる場所を探す
- 椅子に座って深呼吸を1回、リラックスする
- 時計の秒針を見ながら15秒間、脈を数える
- 数値を4倍にして1分間の脈拍数を算出
- 同時に「リズムが規則的か」を意識する
15秒で間隔が一定でないと感じたら、もう1〜2分続けて測ってください。脈がたえず不規則な場合は心房細動の可能性があるため、循環器内科の受診を検討してほしいタイミングです。
チェックは「朝起きてすぐ」がおすすめ
期外収縮は、いのまたクリニックの解説にもあるとおり、就寝前やリラックス時など静かな時間に感じやすい傾向があります。日中は周囲の刺激で気づかないだけで、夜になると同じ症状でも増えたように感じやすい。
だから検脈は、起床直後の落ち着いた時間がベストです。家庭血圧の測定とセットで習慣化すると続けやすい。記録は日付・脈拍数・リズム(規則/不規則/時々飛ぶ)の3項目で十分です。
うちのクリニックでは、患者さんに「脈拍日記」を渡してます。手書きでもスマホメモでも構わない。1か月分のデータがあると、受診時の問診が驚くほどスムーズになります。
スマートウォッチ・家庭用心電図で「証拠」を残す
不整脈の困ったところは、症状が出てる瞬間を捕まえないと診断できない点です。クリニックで12誘導心電図を撮っても、その時に脈が飛んでなければ「異常なし」と出てしまう。患者さんからすると「私の症状は気のせいなのか」と落ち込む方も多いです。
そこで近年、診察の助けになっているのが、スマートウォッチや家庭用の単誘導心電計です。症状が出た瞬間に自分で記録できる。以前まとめた動悸や不整脈の7つのサインを解説した記事でも、家庭用機器の活用法に触れています。
| 機器の種類 | できること | 限界 |
|---|---|---|
| 光学式スマートウォッチ | 心拍数の常時測定、不整リズム通知 | 波形が単純で確定診断には不向き |
| 単誘導心電図機能付きウォッチ | 30秒間の心電図波形を記録、PDF出力可 | 1誘導のみで情報量が限られる |
| 家庭用携帯型心電計 | スマホ連携で症状時に記録 | 装着場所により波形が変動 |
| 医療機関のホルター心電図 | 24時間〜2週間の連続記録 | 機器を借りる必要がある |
Ubieの解説でも、ウェアラブルデバイスは心房細動の検出に役立つと紹介されています。ただし、機器が「異常」と判定しても、それがそのまま診断になるわけじゃない。あくまで医師の評価材料の1つです。
私の感覚では、スマートウォッチの心房細動通知が出た方は、約3〜4割で実際に心房細動や他の不整脈が見つかります。残りの方も、結果として「異常なし」と分かれば、それはそれで大きな安心材料になります。
脈が飛びやすい人の生活パターンを見直す
期外収縮は「健康な人にも起こる」一方で、特定の生活習慣で頻度が増えることが分かっています。東京ハートリズムクリニックの情報によれば、心室性期外収縮の発生源を活発化させる要因として、高血圧、心臓病、肺疾患、喫煙、飲酒、不眠、カフェインなどが挙げられています。
外来で患者さんに生活ヒアリングをすると、脈飛びが増えた時期はだいたい次のどれかに当てはまります。心当たりがあれば、自分の生活を振り返ってほしい項目です。
- 連日の睡眠不足が2週間以上続いている
- 缶コーヒーやエナジードリンクを1日3本以上飲む
- 就寝前のお酒が日課になっている
- 仕事や介護で慢性的なストレス状態
- 風邪や発熱の後、体調が戻り切っていない
- 更年期や甲状腺の機能変化が疑われる時期
東新宿クリニックの解説にもあるとおり、睡眠不足を解消し、規則正しい生活を送るだけで症状が激減することがあると報告されています。実際、私が見てきた患者さんでも、カフェイン量を半分にして就寝時間を1時間早めただけで、1か月後には脈飛びの自覚がほぼ消えた方が何人もいます。
隠れた病気が背景にあるケースも
生活習慣を整えても飛び続ける場合は、背景に別の病気が隠れている可能性があります。東新宿クリニックでも、原因検索のために血液検査で貧血や甲状腺疾患、電解質バランスの乱れを確認すると説明されています。
とくに甲状腺機能亢進症は、動悸・脈飛び・倦怠感などの症状で循環器を受診した方が、実は内分泌の病気だった、というケースがそれなりにあります。家庭の血圧計の数値が以前より高めに推移しているなら、合わせて医師に伝えてください。
高血圧そのものも心房細動の重要なリスク因子です。家庭血圧の継続的な記録は、不整脈の評価でも貴重なデータになります。
受診のタイミング判断フローチャート
「いつ病院に行けばいいのか」が、患者さんから一番よく出る質問です。私の答えはいつも同じで、「迷ったら行ってください」。それでも判断材料がないと動けないので、目安を整理しました。
| 状況 | 取るべき行動 |
|---|---|
| 失神した・意識が遠のいた | 119番、または救急外来へ |
| 強い胸痛・冷や汗・嘔気を伴う | 当日中に救急対応のある病院へ |
| 脈飛びが連続して止まらない | 翌診療日に循環器内科を予約 |
| 時々飛ぶが症状は軽い | 1〜2週間以内にかかりつけ医 |
| 健診で期外収縮を指摘された | 1か月以内に循環器内科で評価 |
| 家族に若くして突然死の方がいる | 症状が軽くても早めに専門医へ |
家族歴は意外と見落とされる項目です。遺伝性の不整脈が背景にあると、若年でも危険な事態につながり得るため、問診で必ず伝えてほしい情報の1つです。
受診時には、検脈日記、家庭血圧の記録、スマートウォッチの心電図波形(PDFやスクショ)を持参すると、診療の質がぐっと上がります。医師は「症状が出ている瞬間のデータ」を一番欲しがってます。
「経過観察でいい」と言われた後の付き合い方
循環器で検査して「経過観察」と言われた方の多くは、必要以上に不安を引きずってしまいます。でも、心エコーや採血、ホルター心電図で問題なしと評価されたなら、それは医学的に「今は大丈夫」というお墨付きです。
いのまたクリニックの解説では、脈の乱れを「生活リズムのバロメーター」として捉え、自分の生活を見直すきっかけにするのも良いと紹介されています。私もこの考え方に賛成で、過剰に怖がらず、でも油断もせず、というスタンスがちょうどいいと思ってます。
3〜6か月ごとに検脈と家庭血圧の記録を見直し、傾向が変わったら相談する。これくらいのテンポで十分です。
脈が飛ぶときに「やってはいけない」3つのこと
外来で「これだけはやめてほしい」とお願いしている対応があります。よかれと思ってやってしまう行動が、かえって悪化や見逃しにつながるからです。
1. ネット情報の自己診断で安心も不安もしない
「期外収縮はほとんどが良性」という情報を読んで安心するのも、「突然死」という単語を見て眠れなくなるのも、どちらも極端。どんな記事も個別の体には当てはまりません。本記事も同じで、最終判断は必ず医師の評価を経てほしいです。
2. 市販のサプリや民間療法で「治そう」としない
不整脈に効くと謳うサプリや民間療法は、医学的根拠が確立されているものは限られます。背景にある原疾患の治療が遅れる原因にもなるため、まずは医療機関での評価を優先してください。
3. 過度に運動を制限してしまう
「脈が飛ぶから運動は控えなきゃ」と、急にウォーキングまでやめてしまう方がいます。でも、医師から制限を指示されていない限り、適度な有酸素運動はむしろ心臓に良い影響を与えるとされています。運動可否は必ず医師に確認してください。
正しく怖がる、正しく付き合う。自宅でできるセルフチェックは、その土台になる道具です。
よくある質問
Q1. 1日に何回くらい脈が飛んだら病院に行くべきですか
明確な「何回以上は危険」という数字は決まっていません。日本心臓財団のQ&Aでは、ホルター心電図で1日数千回〜1万回以上の期外収縮があっても、心機能が正常で症状が軽ければ経過観察となるケースが紹介されています。回数より「症状の強さ」「失神の有無」「心機能の状態」が判断の柱になるため、不安があれば回数に関係なく一度循環器内科で評価してもらうのが安心です。
Q2. スマートウォッチで「不規則な心拍」と通知が出ました。すぐ受診すべき?
失神・強い胸痛・呼吸困難がなければ、当日救急に駆け込む必要はありません。ただし通知の履歴と心電図記録を保存して、1〜2週間以内に循環器内科を受診してください。通知が誤判定のこともあれば、本当に心房細動を捉えていることもあります。自己判断で放置せず、医師の評価を仰いでほしい場面です。
Q3. 横になると脈が飛びやすいのは病気ですか
就寝前やリラックス時に飛びやすく感じるのは、ありふれた現象です。日中の活動中は心拍数が上がり、相対的に期外収縮が紛れて気づきにくくなる一方、安静時は心拍がゆっくりになるため小さな乱れも体感しやすくなります。安静時のみで、症状や運動時の悪化がなければ、まず生活習慣を見直すところから始めて構いません。
Q4. カフェインを控えれば本当に良くなりますか
カフェイン感受性には個人差があり、「全員に効く」とは言い切れません。ただし、カフェイン・アルコール・喫煙・睡眠不足は期外収縮の悪化要因として挙げられているため、まず2週間ほど控えめにして変化を観察するのは試す価値があります。検脈日記をつけながら、減らした前後で頻度が変わるかをセルフ評価してみてください。
Q5. 健診の心電図で「期外収縮」と書かれました。放置していい?
放置はおすすめしません。健診の心電図は数秒間の記録なので、その時に偶然出た期外収縮なのか、ずっと続いているタイプなのかは分かりません。背景に心臓の構造的な病気が隠れていないかを確認するため、1か月以内を目安に循環器内科で心エコーやホルター心電図を受けてほしいです。問題がなければ「ありふれた良性のもの」と確定でき、それ自体が大きな安心材料になります。
Q6. 検脈は1日に何回測ればいいですか
普段の習慣としては、朝起きてすぐの1回で十分です。家庭血圧と同じタイミングで測ると忘れにくい。脈が飛ぶ症状を自覚した時には、その都度追加で測ってメモしておくと、受診時の貴重な情報になります。1日に何度も測って数字に振り回されるより、決まった時間に淡々と続ける方が長期的な変化を捉えやすいです。

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